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「何を見せる?」から「どう魅せる?」へ |第一話

 

こんにちは!藤井雅範です。
今日から5日間に渡って、あるストーリーを連載します。
読み進むうちに自然とVMDの基本がつかめるように、軽い読み物風にしました。
 もともとは日本を代表するショッピングモールのテナントさん向けのH.Pにコラム的に連載したものです。
それに少し筆を加えてみました。
 はじめてVMDにふれる人にも、ある程度の知識を持っている人にも、そもそもVMDなんて知らないよ!という人にも楽しんでいただけるつもりで書きました。
よかったら読んでみてください。そして感想をコメントで返していただければとても嬉しいです。
それでは、お楽しみくださーい!

『お客さまは正面からやってこないのです』

 23歳の誕生日がやってきたその日、辞令が下りた。私は勤務地が変更になり、それまでのオフィス勤めから店頭でのVMDスタッフとして働くことになる。
 もちろん順を追って詳しく話そうと思えば、このまま一週間だって話し続けることができる。でもひとまず要点だけを言うと、だいたいそういうことになる。23歳の誕生日がやってきたとき、私はアパレルメーカーの販売促進部のスタッフから、全く経験のないVMDのスタッフとして店頭でのお仕事に従事するようになった。

 あまりに突然の辞令でなんだか現実に起こったことではないような気さえする。でもそれは間違いなく私の身に起こったことなのだ。ボーイフレンドとさよならした、あの、23歳の誕生日に。

 

 「あなた芸大でてるんでしょ?」エリアマネージャーはお店に入ってきた私にそう聞いた。
 あるいは独り言だったのかも知れない。彼女はいっときも手にしたスマホから目をそらさなかったからだ。
 「じゃVMDもお得意よね?」彼女はスマホに向かって言葉を続けた。ストレートのロングヘアーにハットを深くかぶり、リブ編みのニットにワイドパンツ。そんなノスタルジックなスタイリングが板につきすぎている女性だ。
 「芸大って言っても勉強してたのはインテリアデザインなんです・・・」
「なんだっていいのよ。この、お店という空間を、売上がアップするようにあなたがアレンジしてくれればね・・・」

 
 マネージャーのお話を要約するとこういうことだった。『このブランドは全国で30店舗展開。毎週本部からVMDの指示書が送られてくる。その指示書通りやってうまくいく店もあれば、いかない店もある。その原因もわからないまま、また次の週を迎えている。全体の売上は緩やかに下降。売上を分解してみるとお買い上げ客数の落ち込みが顕著。入店客数とお買い上げ率、どちらも前年の平均を下回っている。そこで店頭でそれを解決できるVMDスタッフが必要になった・・・』

 

 私はぼんやりとモヤがかかったままの頭で少し考えた。「ふーん、入店客数が減っているのか」そう思って、改めて店頭を見てみた。何をどうすれば良いなんて未経験だし全然わからない。でも私自身お店でショッピングをすることは好きだ。だから自分がお買い物するつもりで見てみようと思った。まずお店が入っているショッピングモールのメインのエスカレーターから、お客さまがお店にやってくるであろう道筋を、実際に歩いてみることにした。

 

 

「あっ、そういうことか!」自分の足でお店までの導線をたどることで気づかせてくれる事があった。それは“お客さまは前からやってこない”ということ。お店の前においてあるマネキンやT字ラックは全部正面を向いている。見事に全部だ。しかしその先にあるのはお向かいのお店。お店の中にばかりいると、ついお客様は正面から入ってくるものと思い込んでしまうのかも知れない。でも外から観察すると、主導線からのお客さまはお店の正面に対して横から歩いてくる。それに気づいた私はマネキンやラックの向きを変更した。更には色や素材で関連性をつけてみた。するとお客さまが立ち止まってくれるようになったのだ。

 

 自分がお客さまならどうすればお店に気づくだろう?立ち止まりたくなるだろう?ディスプレイを変えながらずっと考えていたのはそういうこと。ひととおり店頭のディスプレイを変化させてマネージャーに報告してみた。マネージャーは店頭をじっと見つめていた。そろそろお店に穴が空くんじゃないか?と心配した頃に表情が変わった。口角がキリッと上がった。

 そしてようやく、スマホではなく私の方へ顔を向けてくれたのだ。私は頭の中にかかったモヤが少し晴れていくような、そんな気がした。

第二話につづく

 

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