僕たちの波乗りは、いつもサーフトリップだった

サーフトリップという言葉がある。
良い波を求めて海から海へ旅をするときに使われる言葉だ。
そんな長旅でなくても、僕たちが波乗りに出かけるときはいつもサーフトリップだった。
芦屋や神戸といったエリアに住んでいる僕たちにとって海は目の前にあるけれど、届く波はそのパワーをそぎ落とされたものだからだ。
だから太平洋や日本海と行った場所まで、結構な距離を時間をかけて走るサーフトリップなのだ。
特に、橋や高速道路がまだ整備されていなかったあの頃には・・・
僕が最初にサーフトリップにでかけたのは10代の終わり頃。
50CCのスクーターのシートにショートボードを載せてその上にまたがるスタイル。
その姿での運転は辛いように思えるけど、走る距離はたかがしれている。
芦屋から青木のフェリー乗り場はすぐ。
『フェリーむろと』に乗り込み目指すのは四国の甲浦港。
甲浦港からならサーフスポットの生見までも近い。
ただしフェリーは一晩掛かる。
夜に青木をでて朝甲浦に着く。
スクーターに乗ってる時間は短いけど、一晩がかりの旅だ。
今は橋ができたから時間は短縮された。
でもずーっと運転するのはキツイものね~
あの頃のほうが肉体的には楽。
あの日、僕たちはスクーターにまたがってビーチに着いた。
僕にとって生まれて初めて見るビッグウエーブ。
友達も波乗りが達者なわけではない。
見様見真似でヘトヘトになってアウトに漕ぎ出すけど、なかなか出ることが出来ない。
やっと出られたと思ってもセットが襲ってきて、あっという間にインサイドに戻される。
ボードに立つことなんて全く出来ない・・・
そんな格闘を二日間繰り広げて帰路につく。
ボロボロの体でフェリー乗り場へ。
乗り場脇の売店で弁当とビールを買う。
弁当と言っても、今コンビニで売っているような作りおきのものではない。
注文してから詰めてくれる。
だからホッカホカなのだ。
フェリーに乗り込み、まだ温かい弁当を冷えたビールで流し込む。
その味の美味いこと美味いこと美味いこと!
特に贅沢なおかずが入っているわけでもないフツーの弁当だけど、間違いなく一番美味い弁当。
弁当の旨味もビールの苦味も、空っぽの身体に沁み入ってくるようだ。
友達と乾杯して、海であった散々な目を思い返す。
体はいつまでも波に揺られている。
海の上でもフェリーの上でも。
結局波には乗れなかったけれど、「又来たいなぁ」。
そう思った、僕の初めてのサーフトリップ。
サーフィンをするのが目的だけど、その行程、きっと旅自体が貴重な経験なんだねぇ。

Free-Photos / Pixabay
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