ピンボール・マシンとVMD

1973年のピンボール

「ピンボールマシーン」「完璧なコピー」「ペニー・レイン」「配電盤」「古いスタン・ゲッツ」「スペース・シップ」「ラバー・ソウル」「オールド・ブラック・ジョー」「ジェイズ・バー」「アーサー王と円卓の騎士」・・・

こんな言葉の数々。

それが登場するのが『1973年のピンボール』という小説です。

村上春樹さんのデビュー二作目。

 

上の言葉は、ボクがこの本をパラパラとめくって目についた言葉を、ランダムに羅列しただけです。

一見、とてもカッコよい言葉が並んでいるように見えますよね?

でもよく見れば「配電盤」や「オールド・ブラック・ジョー」や「アーサー王と円卓の騎士」はどうでしょう?

「配電盤」って決してかっこ良い言葉ではないです(笑)

「オールド・ブラック・ジョー」はなんだか悲しいイメージ。小学校の授業で歌ったような記憶があります。かっこ良いというニュアンスではない。

「アーサー王と円卓の騎士」これに関しては読んだことがないのですが、coolには聞こえません。

でも、そんな言葉もこの小説に描かれるとカッコ良く聞こえてしまうから不思議。

「配電盤」がcoolな存在になってしまうのです(笑)

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1973年のピンボール

この小説では上記のような一文があります。

「あなたがピンボール・マシンから得るものは殆どなにもない」「失うものは実にいっぱいある。歴代大統領の銅像が全部建てれるくらいの銅貨と、取り返すことの出来ぬ貴重な時間だ」「ピンボール・マシンはあなたをどこへもつれて行きはしない。リプレイのランプを灯すだけだ」「ピンボールの目的は自己表現にあるのではなく、自己変革にある。エゴの拡大にではなく、縮小にある。分析にではなく、包括にある。」・・・・・

実に端的にピンボール・マシンの一面を表しているように思える文章です。

 

ピンボール・マシンは人生の縮図だ!

ボクはお店の売上をアップさせるコンサルタントをしています。

その場合の核となる技術体系は「VMD(ヴィジュアル・マーチャンダイジング」と呼ばれています。

「VMD」の定義はこうです。

「お客様にあなたのお店(あなたのブランド)の価値を視覚を中心とした五感で伝えること。」

五感で伝わる「演出力」がキーなのです。

芦屋のGRASSというお店に飾られているバックグラス

芦屋のGRASSというお店に飾られているバックグラス

ピンボール・マシンは実に魅力的な機械だと思います。

バックグラス(マシンの正面に立ているボード)には魅力的なキャラクターが描かれている。

プレイフィールド(ゲームをする盤面)はライトが点滅し、ボールがレーンを通過したり、ターゲットに当たると小気味よい音を立てる。

プランジャー(ボールを打ち出す為のバネを引く為のパーツ。小さなドアノブのような形状)を引っ張る時のバネの感触。

ボールを打ち返すフリッパー(降りてきたボールを打ち返す為のバット状のパーツ)の電気的な感触。

そして一ゲームアップ(高得点が出てリプレイできること)した時にコツンとした音とともに作動する、下から小さなハンマーで叩き上げられたように響く感触・・・これがボクは大好きです!

ピンボールマシンが置かれていたのは、大抵バーかカフェかゲームセンター。

そこでは煙草の煙かコーヒーの香りかウイスキーの香りか、あるいはそのすべてがドーナッツのような渦になって積み重なっている。

そしてプレイのお供にはビールかコカ・コーラが似合う。

 

ピンボール・マシン。

たしかにそれはどこへも連れて行ってくれません。

なんの得にもならない。

時間とコインを浪費するだけかも?・・・

 

でもピンボール・マシンって五感で愉しむものなんですね。

バックグラスに描かれたセクシーなアメリカン・ガールはまるで成功と富の象徴であるみたいに見えるし、プレイフィールドの光の軌跡は明るい未来に思いを馳せさせてくれる。

プランジャーによって打ち出されたボールは、今まさに一歩踏みたした若者のようにも見える。プレイフィールドという名の人生を。

そしてフリッパーは人生における転機を作り出してくれる。

上手く跳ね返せば、バネの力で高く上まで上り詰められるし、外せばそれまで。

そんな人生の疑似体験を、視覚聴覚嗅覚味覚触覚といった五感で愉しめる。

 

ピンボール・マシンを定義してみるとこんな感じかな?

「ピンボール・マシンとは、あなたの人生の縮図を視覚を中心とした五感で疑似体験させてくれるもの」

バックグラスというディスプレイで誘導して、プランジャーという導線で回遊させ、フリッパーという応対を経て次に繋げる。

ピンボール・マシンは人生の縮図。そして、その人生の価値を豊かに伝えるためのVMD(五感で伝わる演出力)が充実しているんですね。

「1973年のピンボール」という小説を読んで感じたのは

 

・・・・・そういうことです。

 

 

過去にもピンボールについて書いた記事があります。

もし興味があればどうぞ→《まるで昔の彼女のような、古いピンボールマシン・・・》

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