『1978年の芦屋ボウル』
前回ピンボールにまつわるお話しを書きました→ピンボール・マシンとVMD
今回も引き続きピンボールのお話しを。
あれに比べれば、俺なんてまだ女の小指の先を握ったぐらいのものさ・・・
村上春樹さんの小説には、あらゆる場面でメタファー(暗喩、隠喩)が駆使されている。
上の写真にある文章でもそうだ。
要約するとこんな感じ。
『1970年、僕と鼠はジェイズ・バーでビールを飲み続けていた。当時鼠はピンボールに夢中だった。92500というのが彼の記念すべきベストスコア。しかしそんな鼠が唖然とするほどのテクニックを持った男がいた。それは週に一度ジェイズバーにやってくるピンボール会社の集金人兼修理人。タバコが半分燃え尽きるほどのわずかな時間内で、ボールをすべてのレーンに通し、すべてのバンパーに当て、すべてのターゲットを落とした。それを見た鼠はこういった。「あれだけのテクニックがあればスコアは20万はいくかもしれない」「あれに比べれば、俺なんかまだ女の子の小指の先を握ったくらいのものさ・・・」』
ここでも幾つかのメタファーが使われています。
特に印象的なフレーズはこれ。
「あれに比べれば、俺なんかまだ女の子の小指の先を握ったくらいのものさ・・・」
「俺の技術なんかまだまだ未熟だ」「俺なんかまだまだひよっこだ」「彼と俺とは比べ物にならない・・・」
普通だったらそんな表現で書くところを、「あれに比べれば、俺なんかまだ女の子の小指の先を握ったくらいのものさ・・・」と書いてしまう。
なんだかすごいセンスです・・・
ボクとSのピンボール
かつてボクもピンボールに夢中だった時期があります。
1978年、高校一年生の頃。
放課後に学校を出るとよく友達のSが校門の前で待っていてくれた。
当時彼は高校に行っていなかったので、結構ヒマだったようです。
よく一緒に近所のボウリング場に行きました。
「芦屋ボウル」、という名のそのボウリング場にはピンボール・マシンも置いてあった。
Sはボウリングがとても上手い。
見事なフォームで投げて、いつも高いスコアを叩き出す。
でもそれはあんまり羨ましくはなかった。
羨ましかったのはピンボールの腕前です。
Sがピンボールを始めると、見物客が集まって見に来るくらいの腕前。
当時夢中になった台はサファリをテーマにしたものでした。
いろんな動物をハンティングしながらゲームは進みます。
フリッパー(下りてきたボールを打ち返すためのバット)は3つ。
上部に1つ、一番下に左右2つ。
その上部のフリッパーでは左にずらりと並んだターゲットが狙えます。
Sは毎回5つのターゲットを当てて倒します。
左から順番に5つ全てを。
見事に・・・
そのターゲットにはそれぞれチンパンジーの絵が書かれていました。
だから当時ピンボールをやりに行くことを「“お猿退治”行く?」といってたっけ。
まぁ、それ以外にはこれといって取り柄のないSだったけど(笑)
ボウリングとピンボールの腕だけは抜群だったなぁ。
機会があれば、またあの台でお猿退治をしてみたい。
そしてS。
彼は今でもどこかで、フリッパーを弾いているのだろうか?
・・・・・そういうことです。
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