文学とVMD |『檸檬』から学ぶディスプレイ・デザインのヒントその3
こんにちは!
VMDコンサルタントの藤井雅範です。
『文学とVMD』
今日はその3回めを書いてみますね。
心の機微はちょっとしたことから
梶井基次郎の短編小説『檸檬』
この作品では、その主人公は頻繁に気持ちがゆらぎます。
憂鬱な気持ちのまま出掛けた街、立ち寄った果実屋で檸檬を握った瞬間心が緩み幸福な気分になる。
次に丸善(書籍や文具や雑貨のお店)に入った途端、また憂鬱な気持ちが頭をもたげてくる。
しかし丸善にて自分が立ち読みしたのち積み上げていおいた画集を目の前にして、あるアイディアを思いつく。
すると憂鬱な気持ちから一転、軽やかな興奮に包まれる。
人間の気持ちって、たしかにちょとしたことで変化してゆきますよね。
『檸檬』はそんな心の機微の描写も楽しめる小説です。
心を動かす!触覚と嗅覚の演出
『檸檬』にはこんな一節が登場します。
その檸檬の冷たさはたとえようもなくよかった。その頃私は肺尖を悪くしていていつも身体に熱が出た。事実友達の誰彼に私の熱を見せびらかすために手の握り合いなどをしてみるのだが、私の掌が誰のよりも熱かった。その熱い故だったのだろう、握っている掌から身内に浸み透ってゆくようなその冷たさは快いものだった。
私は何度も何度もその果実を鼻に持っていっては嗅いでみた。それの産地だというカリフォルニヤが想像に上って来る。漢文で習った「売柑者之言」の中に書いてあった「鼻を撲つ」という言葉が断れぎれに浮かんで来る。そしてふかぶかと胸一杯に匂やかな空気を吸い込めば、ついぞ胸一杯に呼吸したことのなかった私の身体や顔には温い血のほとぼりが昇って来てなんだか身内に元気が目覚めて来たのだった。……
実際あんな単純な冷覚や触覚や嗅覚や視覚が、ずっと昔からこればかり探していたのだと言いたくなったほど私にしっくりしたなんて私は不思議に思える――それがあの頃のことなんだから。
“掌から浸み透ってゆくようなその冷たさは快いものだった”
お店の演出でも触覚というものは実は効果が大きいのです。
例えば商品を、お客さんの手に取りやすい場所に陳列します。
その商品が素材感に特徴がある場合などは、実際に触れてもらうことでより価値が伝わる。
触れることで商品との距離が一気に縮まるのです。
だから触りやすい陳列に変更するということは購買率(お買い上げ率)の向上に役立つのです。
“私は何度も何度もその果実を鼻に持っていっては嗅いでみた。それの産地だというカリフォルニヤが想像に上って来る。”
嗅覚というものは記憶に残りやすい、という特徴がります。
これはきっと潜在意識にまで残りやすいからかもしれませんね。
突然降り出した雨によって濡れたアスファルトの匂いで、子供の頃の学校帰りの記憶が突然蘇ってきたり。
そんな効果があるのです。
ご自身のお店でも香りのテーマを決めて演出してみると、お客さんの意識の深くにまであなたのお店が認識される効果がありますよ!
梶井基次郎、感性豊かな作家だったんですね。
そしてそんな作家は若くしてなくなります。
1932年まだ31歳でその生涯を閉じました。
この続き、また書いてみますね。
デザインやディスプレイの仕事をしている人は読んだ方がいいですよ。(短編小説、五分で読めます)↓
【ファッションワールド東京で講演します】
今年に入ってからはセミナーも全てオンラインに切り替えていたので、久しぶりのリアルの場でのセミナー。
今だからこそ伝えたいことがあります!
- コロナ禍が教えてくれたもの
- コンシューマー(消費者)の行動の変化
- 店舗環境の対応
- MD,VMDの進化
- リアル店舗のあるべき姿とは?
・・・・・
僅かな時間ですが、ご来場者の皆さんにしっかり伝えたいと思います。
10月28日、東京ビッグサイトでお会いしましょう!
詳しくはこちらから⬇
この記事へのコメントはありません。