サービスがサービスで無くなる時

『床屋』という言葉は放送禁止用語だそうです。

なんでだろう?

今日は『散髪屋』さんのお話です。

ボクが通っていた散髪屋さん

ボクは高校生の頃から10年ほど、ずっとおんなじ散髪屋さんに通っていました。

通い始めたきっかけは、パーマが上手い散髪屋さんという評判だったからだと思う。

でもパーマをあてなくなってからも、ずっと同じ散髪屋さんに行っていました。

 

ご夫婦でお店をやってられたんですが、ふたりともとっても無口。

ボクもベラベラ話す方ではないので、そのほうが居心地が良かったのだと思います。

だから長く通っていました。

ご主人はたまに口を開くと、同じ店に来るボクの友達のことや、車の話をするくらい。

奥さん(主にシャンプーを担当)に至っては、『らっしゃい』と『あざしたっ』くらいしか言葉を発しない。おまけに笑うことも無いし、化粧すらしていない(別にお客さんに失礼な感じではないですよ)

本当に素朴で無口な人なんだと思う。

 

このご夫婦には小さな男の子がいました。

この子は普段奥の部屋にいるのですが、たまに店に出てきて母親に何かせがむ。

その時にはさすがに奥さんは口を開きます。
そしてその息子は、よく喋るのです。

当時まだ幼稚園に行くか行かないかの頃だと思いますが、口が達者なのです。

無口なご両親が今まで言葉を抑えてきたことに対して、まるでかたきを討つかのようによく喋る。

ご主人であろうが、奥さんであろうが、お客さんであろうが、鏡の中の自分であろうが、理容椅子に向かってであろうが一方的に喋り続けている。その姿がとっても子供らしくて、なんだか良いかんじだったな。

お勘定の儀式

この散髪屋さんではお勘定が終わってからある儀式が行われる。

それはご主人がマイルドセブンを勧めてくれるのだ。

タバコの箱を振ってすすめてくれる。(確か最初に行った高校生の頃からそうだった気がする)

一本引き抜いて咥えるとライターで火を点けてくれる。

確かに、散髪終わりの一服って美味かった様な記憶があるなぁ。(もう禁煙して15年たちますが)

そうするのが気の利いたサービスだった、そんな時代だったのです。

Myriams-Fotos / Pixabay

当初はボクはセブンスターを吸っていた時期だったのでありがたくいただいていました。似たような味だったしね。

しかしある時期からメンソールのタバコを嗜み始めるようになったボクは、普通のタバコが好きではなくなっていたのです。

どうせだったらメンソールを吸いたかったので、お勘定の後にタバコを勧められても断るようになりました。

 

『いや、結構です』とボクが言うと『煙草やめたん?』と聞かれました。ボクは『いや、薄荷煙草を吸ってるから』と答えました。

しかし次に行ったときもマイルドセブンを勧められるのです。

また断ると、『煙草やめたん?』と聞かれる。再び『いや、薄荷煙草を吸ってるから』と答える。

そしてまた次に行ったときもマイルドセブンを勧められる。

また断ると、『煙草やめたん?』と聞かれる。再び『いや、薄荷煙草を吸ってるから』と答えました。

そしてその次もマイルドセブンを勧められたんです。

断ると、『煙草やめたん?』と聞かれました。ボクは『うん、やめました』と答えた。なんだかもうめんどくさくなってね(笑)

流石にそれからは勧められることがなくなりました。

そして店を出てから自分のメンソールタバコに火をつけるんです。やっぱり散髪後の一服は美味い。

 

でもね、たまに奥さんがお勘定する時があったんですよ。

黙ってタバコの箱を差し出してくる。

ボクも黙って手のひらを左右に振って断る。

そんなことをしてましたねぇ。

 

もう30年以上前のお話です。

今の御時世、くわえタバコで道も歩けない。

お客さんが帰る時にタバコを勧めるお店なんて無いんだろうなぁ。サービスの基準も昔とは変わってきているし。

それとも今でもあのお店では、お勘定が終わるとご主人はマイルドセブンの箱を振って、お客さんに勧めているのだろうか?

 

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