コージがあんなに笑ってる!
ドキッとするほど大人びた子供がいる。
ずっと昔、僕の友達にもいた。
そのうちの一人のことを書いてみようと思う。
僕はちょっとした事情で地元の中学に進学できず、隣街の中学に通うことになった。
野球の強い中高一貫校だ。
高校が野球の強豪校ということもあり、中学に入学した生徒の大半は野球部に入部する。
僕は野球以外のクラブを選んだ。
クラスの大部分を占める野球部員の中でもひときわクールな奴がいた。
それがコージだ。
大抵はお調子者で騒がしい奴らが多い(中学生らしい)中で、それには決して乗らず、無口であまり表情も変えない彼はちょっと変わった存在。
背も高く、同じ歳には思えなかった。
僕たちはひょんなことから仲良くなった。
多分、音楽の話で気があったんだと思う。
部活のない日は、学校帰りによく彼の家に遊びに行った。
川向うに建つ団地だ。
そこで僕たちはタバコを吸ったり、キャロルやジョニー大倉のノーサンキューを聞いたりして過ごした。
音楽やファッションの話をするとき、彼の表情は変わった。
教室で見るクールな表情ではなくとっても楽しそうで饒舌になる。
ちょうどその頃ランナウェイズが来日することになった。
コルセットとガーターベルト姿で歌うカリフォルニアのガールズロックバンドだ。
彼とそのライブに一緒に行ったことも、良い思い出。
とても盛り上がった。
教室の中では相変わらずクールなままだったけどね。
そんな彼の意外な表情を見たことがある。
放課後、野球のグラウンドを通り過ぎた僕の視界に、キャッチボールする彼の姿が入ってきた。
コージが笑っているのだ。
心の底から楽しそうに!
それは、教室の中では見せたことのない表情だった。
まだ中学生。
それほど感情をコントロールする必要はない年頃のはず。
彼が普段あれほどクールだったのは、ちょっぴり複雑な家庭環境の影響かもしれない。
でも音楽の話をしたり、野球してるときには素直に自分の感情が出てる。
クールな表情も格好良いけど、あれほど笑う彼を見てなんだか嬉しくなったことを覚えている。
やっぱり人間って、好きなことに取り組めている時が、しあわせなんだろうなぁ。
その後、僕はその高校には進学せず彼と会うこともなくなった。
風の便りで彼が十代後半で亡くなったことを聞いた。
大人びた友達は、なぜか早く逝ってしまう。
僕はいまだに彼ほど大人ではない。
でもそれはそれで良いと思う。
ただ、好きなことをしている時の笑顔は見倣おうと、そう思う・・・
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