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「何を見せる?」から「どう魅せる?」へ |第五話(最終回)

4日前からスタートしたこのシリーズ。↓

 

軽い読み物風にして身近にVMDを学んでいただける構成にしています。
今日はいよいよ最終回。
全て読んでくれたみなさん、一言共感のコメントを貰えれば嬉しいです!

『仕事は楽しむもの。喜びは人と人との関わりで感じるもの。』

 

「VMDは恋愛ドラマ、VPは突然の出会い、“あ、素敵!”とハッとしてもらうことか・・・」

では、うちのお店ではどうすれば良いんだろう。ここのところずっとそのことを考えていた。朝起きてコーヒーを飲んでいるときにも、電車に乗っているときにも、お風呂に入っているときにも。

 でもなかなかアイディアが浮かんでこない。そうだ!こんなときはやっぱりマスターと話してみよう。きっとなにか糸口がつかめるはず・・・

 

 「マスター、こんちは!」

店のドアを開けて中にはいっても返事がない。しばらくすると何やら奥の方で人影が動いた。

 「やぁ、いらっしゃい。ちょっと整理をしていたんでね」

大きな体のマスターが大きな段ボール箱を抱えてやってきた。

 見ると、レコードがぎっしり詰まっている。

 

 私も音楽が好きだ。ジャンルはバラバラ。ジャズも、時には古いロックもクラッシックも。そしてここのお店はいつもレコードがかかっている。そのアナログな音が心地よく耳に届く。

 今日はボブ・ディランの古い歌が聴こえている。

 

 「マスター、ちょっと相談に乗って欲しいんです。このあいだ話したVPコンテスト、どうもアイディアが浮かばないんですよ〜」

「えっそうなの? で、今のお店の課題はなにかな?」

「課題は・・・やっぱり入店客数かなぁ。昨年よりも減っているし。」

「ふーん、今はどんなふうにVPを作っているの?」

「基本的に本部から送られてきた指示書通りのスタイリング。でもなんだか伝わらないんです。一つ一つは悪くないんだけど、色もムードもバラバラで・・・。きっと、よそで売れているものやトレンドを参考にしているんだろうけど」

「で、お店のコンセプトは何?」

「コンセプト?えっとー、モードカジュアルをベースにした遊び心を忘れない大人のハイセンスなリアルクローズ。デイリーからお出かけまでを提案します、だったかな」

「えーーーっ、なにそれーっ!」

マスターは声を上げて笑いだした。

 

  「モードなの?カジュアルなの?ハイセンスなリアルクローズ?遊び心を忘れない大人って誰???そのコンセプトではどんな商品なのか、どんなお店なのか、伝わらないよね〜。」

「えーっ、そう言われれば、どんな服なのか、分かりづらいかも・・・」

「具体的な人をイメージしたほうが伝わるんじゃない?」

「具体的な人かぁ・・・あっ、マネージャーだ」

「ほうっ、そのマネージャーってどんな人なの?」

「うーん、脚が綺麗でいつもデニムかロングのタイトスカート。ちょっとクールで、女性だけど格好良いんです」

「ふむふむ・・・」

 そうつぶやきながらマスターは先程抱えてきたダンボール箱の前にしゃがみこんだ。

「コレなんかどう?」

マスターは1枚のレコードジャケットを見せてくれた。それはソニー・クラークのクール・ストラッティンというアルバム。
そのモノクロームのジャケットには、黒のタイトスカートに黒いハイヒールの美しい脚の女性が、街を歩いている写真が。

 

 「あっ、格好良い!うん、そんなイメージなんです」まさに今のマネージャーが半世紀前に存在していたらこんな姿だったんじゃないかと。下半身しか描かれていないのにそんなふうに想像できる、とてもCoolなアルバムジャケットだ。

 「VPにはどんなスタイリングをイメージしてるの?」

「黒いリブのセーターにファーのジレにデニム、もう一体はデニムのジャケットにロングのタイトスカート。カラーはモノトーン+ボルドー、大きめのつばの帽子にサングラス、みたいな感じ・・・」

「例えばショーウインドウの壁にこんなイメージのレコードをピンナップしていったら?」マスターはそんなアイディアを出してくれた。

「別にジャンルはなんだって良い。古いモノクロームのレコードジャケットで壁を埋め尽くすんだ。良かったらレコード、貸してあげるよ」マスターは続けてそういった。

 うん、なんかイメージが湧いてきた!壁一面のモノクロームのレコードジャケット。まるでマネージャーのようなスタイリングが2体。格好良い・・・

 

  クール・ストラッティンをはじめ、結局マスターは100枚近くのレコードを貸してくれた。どれもモノクロームのジャケット。それをショーウインドウの床と全ての壁全面に貼り付けてみた。その前に2体のマネキン。スタイリングはモノトーン+ボルドー。ベルトやピアスにポシェットといったアイテムには差し色でグリーンを。コレを加えることでボルドーが引きたった。

そして残ったレコードは床に積み上げてみた。さらにショーウインドウのガラス面にカッティングシートで文字を貼り付けてみた。#(ハッシュタグ)+店名。これはマネージャーのアイディア。お店のinstagramにはいつもこのハッシュタグを使っているから。そしてカッティングシートの文字は差し色のグリーンを使ってみた。

 

  完成したショーウインドウ。少し離れたところから見てみた。すごいインパクトだ!

前を歩く沢山のお客さん。昨日までは足早に素通りする人が多かった。でも今日は違う。歩くスピードを緩める人、立ち止まってショーウインドウを見る人、そしてお店に入る人。そんなお客さんが確実に増えている。

 

  「よし、コレをVPコンテストに応募してみよう!」

課題は入店客数。

シナリオはこんな感じ。

【 “お店の前を歩く人”に“ショーウインドウでスタイリングのテイスト”を伝えて“お店に入ってきて” 欲しい。そのために“カラーとテイストを絞り込む。モノクロームのレコードのディスプレイでスタイリングを引き立てながらインパクトを出す。Instagramもチェックしてもらえるようにハッシュタグを貼る” 】

そんなシナリオ。

 

  数日後、VPコンテストの結果が届いた。

大賞は逃したものの、入賞することが出来た。

でもそれよりももっと嬉しい事がある。それは仕事がとっても楽しくなった、ってこと。

 ボーイフレンドとさよならした、あの23歳の誕生日。突然転勤を言い渡されたあの日。そのときには全然わからなかった仕事の楽しさが、今はわかる。

「仕事って楽しんで良いんだ!自ら考えてアイディアを実現させていくものなんだ!」そう気づかせてくれた、それはマネージャーとマスターの二人。

 

 VPを変えてからお客さんの反応も変わった。お店に入ってくるお客さんのテイストが絞り込まれてきた。入店客数はもちろん、お買い上げ客数も良くなった。時々「instagram見てます」って声も聞かれるようになったし。そんなお客さんとのコミュニケーションも楽しい。

  • 仕事を楽しむ(仕事✕好きなこと)
  • 関係性を楽しむ(表現力、VP✕SNS)

これもリアル店舗だからできることなんだなぁ、そう思った。

 

  これで私のお話は終わり。もちろん後日談はある。

私には新しいボーイフレンドが出来て、マネージャーは結婚した。マスターは相変わらずレコードをかけながらコーヒーを淹れている。

 仕事は楽しい。そしてさらに一つわかったことがある。

それは、人と人とのかかわり合いで世の中は出来ている、ということ。

接客やVMDで感じる喜びも全て人と人との関わりなんだ、と。

 

 五回に渡ってボクのお話に付き合ってくれてありがとう。読んでくださった皆さんに感謝です。

 気づきを感じてくれたなら是非店頭で実行してみてください。どんなに素敵なアイディアでも、行動に移さなければ存在しないのと同じ。

行動に移した結果を、コメントで教えてもらえたらとても嬉しいです!

2018年12月 VMDコンサルタント 藤井雅範

 

ソニー・クラークの『ク—ル・ストラッティン』のアルバムジャケット

 

カッティングシートの文字(パープル)が差し色(グリーン)をきれいに見せている例

 

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