祖母の桃|第2話

あの桃には、味だけではないものがあった。

(前回のお話“祖母の桃第1話”の続きです)

その桃を食べた。

甘かった。

香りがよかった。

そして、とんでもなく美味しかった。

大きな桃を、
一人で食べた。

今でも、あの桃の味を覚えている。

……と言いたいところだけれど、
正確には、味そのものを覚えているわけではないのかもしれない。

覚えているのは、

あの夜のことだ。


先日、スーパーで桃を見かけた。

大きくて、きれいな色をした桃だった。

買ってみた。

もちろん、自分用に。

家に帰って、皮を剥く。

これが、なかなか難しい。

祖母は、よくあんなにきれいに剥けたものだと思う。

なんとか剥いて、食べてみた。

美味しい。

ちゃんと美味しい。

でも、

あの時の桃には、全然かなわない。

なぜだろう。

品種が違うのかもしれない。

糖度が違うのかもしれない。

熟し方が違うのかもしれない。

でも、たぶん、それだけではない。

あの桃には、

祖母がいて、

古い日本家屋があって、

五右衛門風呂があって、

薪の匂いがあって、

夏の夜があって、

そして、

「僕のために用意してくれた」

という時間があった。

桃だけを食べたのではない。

その時間ごと、食べていたのだと思う。

だから、今食べる桃とは、
同じ「桃」でも違う。


これって、
お店の商品にも少し似ていると思う。

同じ商品でも、

どこで見たのか。

どんな空間に置かれていたのか。

どんな言葉が添えられていたのか。

誰から手渡されたのか。

その商品と、どんな時間を過ごしたのか。

そうしたものが重なって、
商品の価値は変わって感じられる。

だから、VMDも、

商品そのものを見せるだけではない。

その商品を手にした先に、

どんな時間があるのか。

どんな暮らしがあるのか。

どんな気持ちになれるのか。

そこまで想像できる見せ方ができれば、
商品の魅力は、もう一歩深く伝わる。


あの夜の桃は、
もう食べることができない。

祖母も、もういない。

けれど、

あの桃の記憶は、
今でも僕の中に残っている。

もしかすると、人の記憶に残るのは、

モノそのものではなく、
そのモノと一緒に過ごした「時間」なのかもしれない。

そう考えると、
お店で商品を見せるという仕事も、少し違って見えてくる。

商品を見せる。

その先に、
どんな時間を見せるのか。

どんな記憶を残すのか。

それを考えることも、
VMDなのだと思う。

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