選んだのは、彼女か。それとも、お店か。〜一つの商品から、ファンが生まれるまで。Vol.03〜
前回の続きです。
彼女は、お店に入った。
入口のスタイリングに惹かれて、なんとなく足を踏み入れただけだった。
まだ、何かを買おうとは思っていない。
店内には、たくさんの洋服が並んでいる。
ブラウスも、ニットも、パンツも。
どれも、それなりに素敵だ。
でも、彼女の視線は、ある一枚のブラウスで止まった。
なぜだろう。
商品は、並べただけでは語り始めない。
例えば、同じブラウスが二つの場所にあるとする。
一つは、たくさんの洋服に挟まれたハンガーラックの中。
もう一つは、少し余白を持たせた壁面に、パンツやバッグと組み合わせて飾られている。
商品は同じ。
値段も同じ。
でも、見え方はずいぶん違う。
前者は、たくさんの商品の中の一枚。
後者は、ある暮らしを想像させる一枚だ。
人は、商品そのものだけを見ているわけではない。
その商品が、どんな環境に置かれているかによって、受け取る印象が変わることがある。
視線には、道筋がある。
お客様の目は、店内を均等に眺めているわけではない。
まず、目に入りやすい場所がある。
次に、興味を引くものがある。
そして、もう少し近づいて見たくなるものがある。
だから、VMDでは視線の流れを考える。
例えば、店内の奥にある壁面。
そこに季節を感じさせるスタイリングを配置する。
その手前には、同じ色や素材でつながる商品を並べる。
視線が自然と奥へ向かい、近づくにつれて商品の細部が見えてくる。
遠くからは世界観を伝え、近づくほど商品を伝える。
この順番が大切なのだ。
余白は、商品を黙らせないためにある。
商品をたくさん見せたい。
その気持ちはよくわかる。
でも、すべての商品が同じ強さで主張していたら、どれを見ればいいのかわからなくなることがある。
だから、余白をつくる。
見せたい商品の周囲に、少しだけ空間を残す。
色数を絞る。
高さに変化をつける。
そして、主役と脇役をはっきりさせる。
余白は、何もない場所ではない。
一つの商品に、視線が集まるための場所なのだ。
さて、彼女はブラウスに近づいた。
遠くから見たときは、ただ素敵だと思った。
でも、近づいてみると、少し違う。
生地の柔らかさ。
襟元の繊細なデザイン。
光によって変わる色の表情。
彼女は、そっと手を伸ばした。
まだ、買うと決めたわけではない。
でも、その一枚は、さっきまでの「たくさんの洋服の一つ」ではなくなっていた。
さて。
目に止まった商品が、なぜ「欲しい商品」に変わっていくのだろう。
次回は、その心の変化を考えてみたい。
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