彼女の傷を癒す方法
彼女は突然出ていった。
『さよなら』も『ありがとう』もいわずに。
黒いライダースを着た見知らぬ男とともに去っていった。
ボクは暫くの間、抜け殻のように生きていた。
体は自分のものじゃないみたい。
まるで貝殻を入れ替えたヤドカリのような気分だった。
もう二度と会えないのかな、彼女には・・・
ボクは大都会の交差点を歩いている彼女を想像してみた。
黒い衣装をまとった背の高い彼女はピタッと足を留めて信号を待ち、やがてしゃんと背筋を伸ばし歩き出す。
大きな歩幅で、でもゆっくりとした足取りで。
そんな想像をしている時に、玄関のベルが鳴った。
『こんにちは』
モニターに映し出されたのは、あの黒いライダースジャケットの男だった。
そばには彼女が寄り添っている。
一体どういうことなんだ?ボクは混乱した。
しばらく思い悩んだ末に玄関を開けることにした。
今のボクにはこれ以上想像力が働かない。開けてみるしか無い・・・
『とても長い時間がかかってしまいました』男はそう言った。
『思った以上に深く傷ついていたもので・・・』
そうなのか?彼女が傷ついたのはボクが原因なのか?
『一応、板金で叩き出して、磨いて塗装をかけてからコーティングをしました』
『えっ?』ボクは思わず聞き返した。
『塗装をかけてしばらく時間を置かないと、上手くコーティングがのらないんですよ。すみません、それで時間がかかってしまって』
そうだったのか?
もうてっきり帰ってこないものかと思っていたけど・・・
ボクは彼女の左シートに滑り込んだ。
そしてエンジンをかけてみた。
懐かしい、低く囁くような声で彼女は話しだした。
『久しぶりね。会いたかったわ・・・』
『ゴメンよ。もう傷は癒えたかい?』
彼女はコクンと頷いた。
『気をつけるよ』ボクはつづけて言った。『特に細い道を走るときはね』
細い道を走る時は、クルマを擦らないよう気を付けて運転しましょうね!
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